最も低く暗い場所から 最も高く明るい場所へ__
貧しいながらも懸命に生きている3姉妹が、最も裕福で権力のある一族と対峙していくことになる
出典:tvN
作品情報
原題 작은 아씨들(小さなお嬢さんたち)
若草物語の原題『Little Women』の韓国語訳と同タイトル
2022.9.31~0.9
tvN
演出・脚本
演出:キム・ヒウォン『運命のように君を愛している』『王になった男』『ヴィンチェンツォ』『サウンドトラック #1』
脚本:チョン・ソギョン『マザー 無償の愛』『毒戦 BELIEVER』『お嬢さん』
感想
事前の期待が大きすぎたのでしょうね。
おもしろいんだけど、どこか消化不良を起こしてしまうようなドラマでした。
美術や演出があまりにも美しく完成されていて、はじめに期待値があがりすぎたのも原因かもしれません。
だましだまされお金を奪い合うコンゲーム的なおもしろさはありましたが、後半にむかっていくほどストーリーが散らかっていく印象。社会的格差や人生におけるお金の意味など、テーマとしていることについて結局なにが言いたいのかわからなくなり、期待したほどのドラマではなかったなというのが正直な感想です。
美術や演出といった視覚的な世界観の作りこみと俳優さんたちの演技は本当にすばらしかったです。
好き度🍙★★★☆☆
※この感想にはネタバレが含まれています。
出典:tvN
英題「Little Woman」若草物語をモチーフに、貧困のなか暮らす3姉妹が得体のしれない大きな力に対峙していく物語。
といっても、3姉妹たちが一致団結して巨悪にたちむかうストーリーではありません。むしろそれぞれ単独で、バラバラに、それぞれのやり方で、自分の信念のために戦う物語です。
長女インジュはお金のために、次女インギョンは正義のために、三女イネは独立のために戦います。
はじめは姉妹が一致団結しないところや3姉妹の持つ危うさが世界観とも合っていて好感を持って見ていたのですが、見進めるにつれて姉妹たちがどんな人物なのかわからなくなり、不安のなか視聴することになります。
不安定で未完成な3姉妹の性格さえ世界観の一部なのかもしれませんが、3姉妹を含む登場人物が全員不安定というか「よくわからない」人物なので、見ていてずっとぞわぞわとお尻の下が落ち着かない感じで見続けなければいけません。その感覚を楽しめる人のみこのドラマを楽しむ資格がある気がします。
(「他人は地獄だ」で感じた不安感に近いです。)
【長女】オ・インジュ(キム・ゴウン)
現実主義でお金に対する執着が強い。お金で家族を守りたい。
出典:tvN
【次女】オ・インギョン(ナム・ジヒョン)
正義感が強い理想主義者。厳しい現実をアルコールでごまかしている。お金に魂を売りたくない。
出典:tvN
【三女】オ・イネ(パク・ジフ)
姉たちの愛情を負担に感じていて、自立心が強い。貧しくても実力だけで芸術高校に合格した才能の持ち主。
出典:tvN
三姉妹の不安定さ
三者三様に「よくわからない」人物なのですが、特に物語を動かす長女インジュのわからなさがすごい。
出典:tvN
出所の不明な20億を自分のものにする大胆さ、いきあたりばったりの行動、よくわからない書類にサインする軽率さ、すぐに人を信じる純粋さが入り混じって、ふわふわした人物。お金に対する執着心以外、すべてがふわふわしています。
逆をいえば、インジュの言動の中でお金と家への執着だけが本物に見えます。インジュの言葉「貧しさは冬のコートにでる。夏はそれなりに他の人のように着られるが、冬服は高すぎる」という台詞から感じる生々しさ。貧しさを言葉で表現しがち。
次女のインギョンは、3姉妹のなかでは、まだいちばん理解できる人物でした。
出典:tvN
正義感の強さと現実のはざまで自分を奮い立たせるため、気づけばお酒の力を借りるようになるインギョン。
1話でナム・ジヒョンがうがい薬をブクブクごっくんと飲み込んだ時には、飲むタイプのマウスウォッシュなんてあるんだ~PPL(間接広告)かな?などと思っていた私は馬鹿です。
病気になったイネをどんな手段を使っても治そうするインジュに対して、治療費をパク・ジェサン頼ることが許せず、大嫌いな大叔母さんに自分を売る極端な理想主義。
目的を果たそうとする執念は、インギョンのお金への執念と似たものを感じました。「死んでも喰らいつく」というのがこの姉妹のテーマなのか。
そして、姉たちの愛情を負担に感じている芸術家の三女イネ。
出典:tvN
長女インジュのわからなさは”そういう人物”なのだと思いますが、イネのわからなさには人物像の描写不足を感じてしまいました。
イネを語る時にセットで話したいのがヒョリンとイネの関係。このふたりの関係がちょっと私の感覚では理解しがたかったです。
パク・ジェサンの娘ヒョリンは、イネの描いた絵を自画像としてコンクールに出品し入賞します。入賞パーティーにはイネも同席するわけですが、友達の描いた絵で入賞してヒョリンが笑顔でいるのも不気味だし、イネを友人として心から慕っているのも不気味だし、ヒョリンがとにかく不気味。
出典:tvN
この不気味さをスルーして、イネとヒョリンを強い信頼関係のある友人として描いてるのが理解できない。この友情を理解できない私が冷たいのでしょうか。
まぁヒョリンは家庭環境のせいで心が壊れてるとして(雑なまとめ)
イネはなぜ、自分が描いた絵で賞賛を受けて当然の顔をしているヒョリンを友だちと思えるのか。
ヒョリンを友だちではなく、自分を留学に連れて行ってくれる「お金」として見ているのかとも思いましたが、そこには明らかに友情があるように見えるし。いつのまにかヒョリンのゴーストライターをしていた過去はなかったかのような二人の関係。もうちょっとイネの感情を見せてくれないとなに考えてるかわかんない。
出典:tvN
絶対絶命のピンチになっても、冷静かつなに考えてるかわかんないイネさん。
そういえば、例の病気の件はどうなりましたか?
術後も普通の生活をするには継続して治療が必要という話でしたが、イネが家出をして居場所がわからなくなってもそれを受け入れる姉たち。
えっと…例の病気の件は大丈夫ですか…?
イネに関しては、いろいろ粗いなぁという印象です。
前述したように、3姉妹はそれぞれ自分の信念のために戦います。
インジュはお金、インギョンは正義、イネは独立のために。
それぞれの戦う対象が偶然にも(?)パク・ジェサンと情蘭会という同じ対象だったため、なんとなく同じ方向をむいている感じになってるけど一体感はなし。
出典:tvN
1話の冒頭にイネの誕生日を姉たちがお祝いするシーンが、最初で最後の仲睦まじい姉妹の姿だった…。
同じキム・ヒウォン監督の「ヴィンツェンツォ」のクムガプラザのような団結して戦う系がお好きな方には好かれない作品な気がします。
情蘭会っていったいなんだったの
主人公である3姉妹がよくわからない人物なので、ストーリーの核になる部分には納得できる明確な何かがほしかったのですが。
3姉妹が対峙してきた情蘭会の正体が予想よりふんわりした組織だったので拍子抜けしてしまいました。ごめんなさい。
出典:Netflix
幻覚を見せる青い欄の怪しさと、情蘭会の実態が離れすぎているといいますか。
コバルトブルーの花に怯え、人をブルーハワイを飲めない体にさせておいて、情蘭会の核心って実はウォン・サンア館長個人の私心というか心の傷だったのねっていう。
ベトナム戦争で国から見捨てられたシルミドな兵士たちが結成した秘密結社、情蘭会。
はじめは「我らが信じるのは自分たち(将軍)のみ」と互助的な組織だったのが、徐々に目的のためなら手段を選ばない集団となり、現在では将軍の娘であるウォン・サンア館長の私物と化していますが、権力をにぎっているのが実はパク・ジェサンではなく、サンア館長だったのはおもしろいなと思いました。
物語のイニシアティブをとるのは全員女性です。
(話がそれますが、サンアが「なぜ私は(後継者に)選ばれなかったのか」と問うシーンにも家父長制への異議を感じ取れます)
出典:tvN
個人的に情蘭会でいちばん不気味だったのが、用済みの人間が次々に消されることでも次期ソウル市長の権力でもなく、青い花を嗅いで自ら命を絶つほどの絶対的な支配力や結束力だったのですが、明かされた情蘭会の実態にそれほどの力を感じられなかったのが残念でした。
(パク・ジェサンがためらいなく散歩するようにビルから飛び降りたのは、情蘭会という組織ではなく妻への愛と忠誠心)
ウォン・サンア館長を演じたオム・ジウォンさんの演技が絶妙に恐怖でとっても良かったです。
出典:tvN
なにも知らない純な少女のようなしぐさや表情。宙をみつめる虚無な目とうっすら浮かぶ笑み。
物語を掌握するにふさわしい狂気☆
キム・ゴウンちゃんとのブルーハワイ事件のシーンは狂気と狂気のぶつかり合いといった様相で、今作は俳優さんたちの演技が見どころだったなと思います。
最も高く明るい場所ってどこですか
ドラマを最後まで見ても理解できなかったポスターのキャッチコピー
가장 낮고 어두운 곳에서 가장 높고 밝은 곳으로
「最も低く暗い場所から 最も高く明るい場所へ」
「最も高く明るい場所」ってどこなんでしょうか。
お金のこと?それともなんの心配もなく暮らせる家?社会の底辺に暮らす3姉妹が最も裕福な一族相手に勝つこと?三者三様に自分の望んだ生き方をすること?
人生におけるお金の意味というのがひとつのテーマになっていると思うのですが、言いたいことがイマイチよくわからず、なんかおもしろかったな~で終わってしまった感があります。貧乏人が富豪の汚れたお金を奪うといった展開や、ジャーナリズムが悪を倒す物語としては純粋におもしろかったのですが。
インジュが裁判で語った「お金よりも大切なのは自分自身」というのがそれなのでしょうか。
オープニングの映像やサンアの卒業制作、将軍のお土産などで頻繁にドールハウスが登場しますが、インジュの家への執着をドールハウスに見立てた暗喩なのかなと思ったりもするのですが、よくわかりません。
最終的にお金を手にした三姉妹が幸せなにむかっていないような不穏な空気で終わったのもひとつのメッセージなのかも知れません。
なにか意味ありげなシーンや台詞や演出はたくさんあるのですが、小さなパーツがたくさん散らばっているだけでそのひとつひとつが繋がってこないので、よくわかりません、かもしれませんの連続になってしまいます。
美術や演出などが丁寧につくりこまれている作品なので、理解できないのは私の力不足が問題だとは思いますが、なにが言いたいのかよくわからなかったというのが正直な感想です。
そして、個人的にはファヨンオンニが生きてたという展開はなしにしてほしかったです。
出典:tvN
インジュのピンチを救い、かわりに服役してくれて、パク・ジェサン財団や関連会社の不正を暴いて一気に解決に持っていく。
伝家の宝刀『実は生きていた』を使うことでストーリーが一気に安くなっちゃったなと感じました。個人の感想ですごめんなさい。
実は生きていたファヨンオンニに、インジュが「自分の人生をかけてもファヨンオンニの死の真相を明らかにしようとどれだけ苦労したか」と憤慨していたのには目が点になりました。人生をかけてオンニの死の真相を明らかにしようとしていた記憶が私の中にないので。人生をかけて700億を自分のものにしようとしていた記憶はあるんだけどな…。
はっきりしていること
よくわからなかいことがたくさんあるドラマでしたが、はっきりとしていることもあります。
チェ・ドイルさんのセクシーミステリー
あれ?ミステリーセクシーだったっけ?
出典:tvN
ウィ・ハジュンってこんなに色気あふれでるスタイルだった?
口元に手を当ててるだけでセクシー。
出典:tvN
基本的にいつも険しい表情してるのに、ふとした瞬間に少し口角あげて微笑むのがひじょうにズルい。
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タキシードなんて着ちゃってズルい。
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立ってるだけでズルい。
出典:tvN
資金洗浄のプロは頭脳戦専門とおもいきや実はけっこう武闘派でズルい。
出典:tvN
誰が情蘭会のメンバーかわからず誰を信じていいのか疑心暗鬼の中、真っ先に裏切りそうなセクシードイルさん。
この人を信じたらヤバいぞ…な雰囲気しかないのですが、インジュのヤバさが浮き彫りになるにつれ「インジュ頼むからドイルに相談しよ?」ってなっていく流れ大好き。
裏切られそうな不安はずっとありつつも、信じたいこの気持ち。セクシーだから。このセクシーな男は私の味方にちがいないと信じたいの。わたしっていうかインジュね。
キム・ゴウン×ウィ・ハジュンお似合いすぎる。(キム・ゴウンちゃんは共演したすべての俳優さんと「お似合いすぎる」を発生させる才能があります。)
出典:tvN
ドイルとインジュの関係に興味がありすぎるコ室長の活躍により、ドイルはインジュへ気持ちがあることをほぼ認めるわけですが、このふたりの結末が変にハッピーエンドじゃなくてほんと良かったです。
空港で「本当に一緒に行かない?」とドイルが言っていることから、それ以前に「僕と一緒にいこう」と誘ったと推測できますが、その場面を想像するだけでもうじゅうぶんです。ありがとうございます。
そのほかに印象に残ったキャストは、3姉妹の大叔母を演じたキム・ミスクさん。
出典:tvN
私が自覚的に韓ドラにハマった最初の作品「華麗なる遺産」でハン・ヒョジュの継母役でどんでもない悪い女を演じたキム・ミスクさん。
独特の空気があって、腹に一物ある人物を演じるのがうますぎる。大好きです。
そして、ウォン・サンアの兄を演じたイ・ミヌさん。
出典:tvN
こちらも私の好きな韓国史劇「王女の男」でとても印象的な役をされていて作品でお会いするたびに「王女の男の…あのお方…」となるので、興味がある方はぜひ「王女の男」見てみてください。
最後に
全体的にマイナスな感想を多く書いてしまいましたが、世界観のつくりこみや美術の美しさ、完成度は近年制作されたドラマのなかでもトップクラスにすごいので、見る価値のあるドラマではあると思います。
わたしのような直感で見るタイプではなく、考察がお好きな方には刺さるのではないでしょうか。
私も考察力がほしい…!!