先日「賢い医師生活」の主演俳優たちが、スクラブを着た集合写真をインスタグラムにポストしたことで、韓国ドラマファンたちがSNSで沸き立つというちょっとした事件があった。
その時に感じたことを書きたいと思いながら、三日三晩悩んでいた。
これはドラマの感想ではなく、私の話だ。
ほとんど恥部といっていいほど恥ずかしく情けない話なのだが、三日三晩たっても書きたい気持ちを抑えられないので書くことにした。
「賢い医師生活」(原題:슬기로운 의사생활)は2020年と2021年に韓国ケーブルテレビ局tvNで放送された大人気ドラマで、ソウル大学医学部を卒業した医師5人がユルジェ病院でともに働くことになったことから展開されていくヒューマンドラマ。
医療ものでありながら、医師の日常や患者たちを通して「生きる」ことを丁寧に描いた良作で、主人公たちの日常や友情、最善を尽くして患者を救おうとする姿に「自分もこういう生き方がしたい」と思わせる強い力のある作品だ。
他に類を見ない人気作で、噂では韓国人の9割の人が見たとか見ていないとか。
もちろん日本の韓国ドラマファンにも圧倒的な支持を得ている。
出典:tvN
現在はシーズン2まで放送されており、シーズン2の制作開始が発表された際にはSNSはお祭り騒ぎ。今回も集合写真が公開されたことで、もしやシーズン3の制作が決定?!との期待で賢い医師生活ファンたちの喜びの悲鳴が飛び交っていた。
シーズン3が公開されたら私も絶対に見るだろう。
今回のインスタにポストされた写真にも、素直に心が躍った。
しかし、それと同時に胸がチクンと痛む。
それは以前から感じていた痛みだった。
今回はこの小さな痛みについて書きたいと思う。
おまえの痛みとか知らねぇからはやくドラマの話をしろとか言わないで。
なぜ胸が痛むのか、理由はわかってる。
まぶしいのだ。
賢い医師生活がまぶしすぎる。
もっと言うと、賢い医師生活を全力で応援している人たちがまぶしすぎるのだ。
「私もこういう生き方がしたい」と思うには、賢医は私にはあまりにも前向きでキラキラしていて全力なのだ。
あまりにも誠実で、理想郷なのだ。
あまりにも理想郷で、遠すぎて、自分はそこには行けないと思う。
そこに行きたいと思うことさえ恥ずかしい気がする。
私には99ズみたいにいつも気にかけてくれる友人もいない。(99年に大学に入学したことから主人公5人は99ズと呼ばれている)
目の前の問題はなるべく先延ばしにしてるし、いつも最善を尽くして生きてないし、これからもとてもそんな生き方できる気がしない。
もちろんソウル大学も卒業してないし、医者にもなれない。スペックの問題じゃないのはわかっているけど。
ただ素直に「賢医の世界が素敵だ」で終わらせればいいものを。
99ズと変わらない年なのに何も持っていない自分…などと思考をこじらせてしまう自分がいる。
そんな自分がいやになる。
なぜ私は美しいものを見た時にただ素直に美しいと思えないのか。
昔からそうだった。
優しく明るくてみんなに愛される人気者を見ては「でも勉強は私の方ができる」と思ったし、旅先でのドラマチックな出会いの末に結婚した友人に、おめでとう~!と花びらをなげながら「10年後にはどうなってるかな」って思ってた。要は底意地が悪いのだ。
若い頃はそんな自分を正当化しようとしていたけれど、それなりの年齢になり、これが私なのだと諦めがついてきた。
そんな私を刺激してくるのが賢医「賢い医師生活」というドラマなのだ。
賢医がまぶしい。
賢医を見て「私もこういう生き方がしたい」と素直に思える自分になりたいのになれないのが悲しい。
こじらせてる。
ほぼ思春期。
そういうわけで。
SNSでみんなが楽しそうに盛り上がっている横で、うらやましげにそれを見ていた私は、賢い監房生活のことを考えていた。
出典:tvN
日本では「刑務所のルールブック」のタイトルで配信されているドラマは実は原題では「賢い監房生活」(슬기로운 감빵생활)という。
賢医と同じイ・ウジョン作家とシン・ウォンホ監督のコンビによって制作された「賢い生活」シリーズの1作目である。賢医の3年前、2017年に放送された。
「刑務所のルールブック」という邦題を考えた方は「賢い医師生活」が発表された時にさぞ焦ったことだろう。まさかシリーズ化するとは。「病院のルールブック」という邦題が検討されたかどうかは知らないが、邦題はそのまま「賢い医師生活」となった。
「刑務所のルールブック」は、韓国野球界のスター選手がメジャーリーグ契約のため渡米する直前、妹を襲った暴行犯を脳死状態にさせてしまい、拘置所に収監されるところからはじまる物語、塀の中の人々を描いた群像劇だ。
主人公の野球選手を、「イカゲーム」で先物取引に失敗して億単位の負債を負った証券マンを演じたパク・ヘスが演じている。
”賢い生活シリーズ”と銘打ってるのだから当然だが、「賢い医師生活」と「刑務所のルールブック」この2作には共通点が多い。
登場人物がはんぱなく多いところ、音楽の使い方やユーモアセンス、小さなエピソードを重ねていく群像劇で「どう生きるか」を描いた点も共通している。
この「どう生きるか」というテーマを描く対象が、一方はソウル大学医学部を卒業した社会的に成功した医師たち、もう一方は犯罪を犯して服役中の囚人たちという社会の底辺というのがおもしろい。
賢医では大学時代から続く20年来の友情を描く一方で、刑務所のルールブックでは偶然同じ拘置所に収監されただけのほんの一時の関係を描いているのも対照的だ。
出典:tvN
どちらも丁寧な心情描写で深い余韻を残す名作なのだが、私は「刑務所のルールブック」により惹かれる。
私が「刑務所のルールブック」に惹かれる理由は、”生々しさ”だ。
人生こんなはずじゃなかったという無念
人生こんなもんだろうという諦観
ただ過ぎていく無機質な日々の中にある囚人たちの小さな関わり。
その小さな関わりがお互いの感情や姿勢や人生を、変えたり変えなかったりする。
「刑務所のルールブック」に登場する人物はみな悪人であり善人でもある。
完全な悪人がいるわけでなく、かといって善人でもない、ひとりの人間の中には白もあって黒もある、その複雑さに生々しい人間味を感じる。底意地が悪くてもそれが人間だ。
生きるのって疲れる
だけど明日もなんとか生きていくか
たとえ最善を尽くせなくても
そんな気持ちにさせてくれるドラマなのだ。
突然に訪れる別れや、希望の先にある絶望、裏切り、それさえ生々しく愛おしい。
あいつ、今ごろどうしてるだろう…ハニャン…
2022年2月現在「賢い医師生活」はNetflix でのみ視聴可能だが、「刑務所のルールブック」はあらゆるVOD(U-NEXT、dTV、FODプレミアム、ABEMA、Netflix)で見られるのに。
なのに、なぜみんな「賢い医師生活」ばかり見るの。
「刑務所のルールブック」だってもっと話題になっていい作品のはず。
「賢い医師生活」が好きで「刑務所のルールブック」未視聴の方がいたら、ぜひ見てみてほしい。損はさせないよ。
最後に。
言うまでもないことですが、この文章は「賢い医師生活」や「賢い医師生活」を応援している人たちを貶めたり否定するものではなく、「刑務所のルールブック」が「賢い医師生活」よりも優れているというものでもありません。どちらも最高。どちらも愛してる。サランヘ。
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